空気が悪いと何も始まらない
ドイツ人は散歩を好み、森、湖畔、公園、家の近所をよく歩きます。ドイツの道は都会でも田舎でも木や緑が多く、歩道が広く散歩しやすくできています。
ドイツには公園がたくさんあり、人々はいつも時を忘れるくらい散歩をします。夏になると、公園内の草地にサングラスをかけてゴロンとなり、何時間でも日光浴を楽しみボーッとしています。施設が整った大きな公園でも入園料がありません。みんなが使いたい、楽しみたい場所を有料にすることは許されません。公園には豊かな自然があります。その自然と触れ合うのは人間としての権利、最低限の欲望で、それを有料にするのはおかしなことだ、というのがドイツ人の考え方です。その代わり税金が高くなります。
私も散歩が好きです。日本でもいろいろな場所に出かけますが、新宿御苑（東京・新宿）がとてもお気に入り。でも、これだけはなんとかして、とお願いしたいことがあります。
夕方6時になると、異常に大きな音のチャイムが鳴り出し、「皆さん時間です。もう帰りましょう」という女性の甲高いアナウンスの声が流れたりすることです。私にとってパラダイスのような聖なる地に、それらが流れるのはとても不愉快です。
夜になると閉園になる公園が多いことも不満です。ドイツの公園は昼も夜もいつもオープン。公園が閉まるというのは、ドイツ人の感覚からするれば、デパートじゃあるまいしと、なんだかビジネスの臭いがしないでもないとなります。
公園について大不満をもう一つ。青々とした芝生地の真ん中に「ゴミを捨てるのはやめましょう」と書かれた立て看板がありますが、私には看板こそがゴミに見えます。ドイツ流にいうと、看板は「私の目に対する侮辱である」となります。ドイツでは、美しくないものを見なければならないというのは、人間に対する侮辱なのです。
散歩は新鮮な空気を身体の中に入れるために最適です。「フリッシェ ルフト（新鮮な空気）」という言葉を、ドイツ人はよく口にします。ドイツ人にとって、空気が悪いと何も始まらないのです。ドイツ人の散歩好きは、「森が好き」「気分転換になる」「おカネがかからない」ということもありますが、最大の目的は、「新鮮な空気を吸う」ことにあります。
年輩のドイツ人は、「frische luft schnappen（フリッシェ ルフト シュナッペン／新鮮な空気を吸う）」という言葉をよく使います。新鮮な空気は、健康や集中力を増すためには不可欠なものです。新鮮な空気がなかったり、足りなかったりすると、頭がボーッとしてきます。
だから、私は日本の通勤電車のラッシュが我慢できません。窮屈である以上に、車内に立ち込める淀んだような空気がたまらないからです。とくに4月〜5月のラッシュには死にそうになるくらいです。クーラーがまだ入っていないので暑いし、狭い空間の中でたくさんの人が同じ空気を吸い吐いていると思うと、「助けてくれ！」と叫びたくなります。それなのに、他の乗客はいっこうに窓を開けようとしません。
ドイツでは、乗客が窓を開けるのは珍しい光景ではありません。それどころか、困ったことですが、乗客同士が窓を開ける開けないのトラブルをしょっちゅう起こしています。「私はリウマチで、風に当たるとひどくなる」「いや、暑いから開けたい」と。
このように、ドイツ人は新鮮な空気にはうるさいので、部屋の換気も怠りません。朝晩と、一日二回は換気を行います。それも、窓という窓は全部、それぞれの部屋のドア、マンションだと、ベランダに面した戸もいっせいに開け放して、家の中の空気を入れ替えます。
健康のために、ドイツ人は自転車も好きです。森の中の道を自転車に乗っている人たちが実に多くいます。ドイツの都会には、自動車のための道、自転車のための道、歩行者のための道が必ずあります。都会に住んでいても、車や歩行者を気にせずにサイクリングを充分に楽しめます。自転車好きにも環境保護、あるいは自然に優しいという、例の第二の理由が存在しています。
ここまでをまとめると、以下のようになります。ドイツ人は皆、こう考えて行動していると思っていいでしょう。
- お化粧をあまりしない → 自然でありたい。環境を守りたい。出費が少ない。
- 健康オタク → 自然の美しさを保ちたい。飽食を慎んで健康的でありたい。環境を守りたい。
- 散歩をする → 自然と接したい。快適でありたい。
- ボーッとする → 快適でありたい。
- サイクリング → 健康的な生活を送りたい。おカネがかからない。環境を守れる。
（6）人間の美しさは自然な食べ物から
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